大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)841号 判決

職権をもつて、原審の訴訟手続の適否を調査するに、原審各公判調書によれば、原審は、弁護人Aの立会の下に、公判における審理を行い、判決をしているのであるが、訴訟記録中の弁護人選任届によれば、A弁護人は、被告人の叔父国島為蔵によつて選任されたものであることが明らかである。刑事訴訟法第三十条第二項には、被告人以外の弁護人選任権者を特定して居り、被告人の叔父は、これに含まれないことは疑を容れない。そうであるから、被告人の叔父国島為蔵によつて選任されたA弁護人は、被告人の適法な弁護人であるとはいわれず、たとえ、A弁護人が原審の公判審理に立ち会つていたとしても、適法な弁護人の立会ではないこととなり、従つて、本件はいわゆる必要的弁護事件であるに拘わらず、弁護人の立会なくして、公判の審理をしたものであるというの外はない。もつとも、A弁護人が原審公判において、被告人のために訴訟行為をなし、被告人もこれについて異議を述べていないことが明らかであるから、弁護人選任手続の違法は治癒されるものであるとか、或は、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかでないという見方もあるであろうが、若しそのように解するとすれば、法定した弁護人選任権者でない何人が選任した場合でも、同一の結論に至らざるを得ないこととなり、かくては、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則が弁護人選任権者を特定し、その選任の方式を定めた規定は、ついに有名無実の空文となつてしまうに至るであろう。そうであるから、右の見解は、当裁判所の採用しないところである。なお、訴訟記録を調査するに、原判決の次に被告人の父国島美義のA弁護士の弁護人選任届が編綴されて居り、それに押捺されている受付印によると、それが原審に提出されたのは、昭和二十九年七月二十九日であるように認められ、恰も原審における審理の途中に提出したものであるように見られるので、前記の叔父国島為蔵の弁護人選任届の不備を追完したのではないかと考えられるが、右の父国島美義の弁護人選任届は、同年七月三十一日附となつて居り、且つ、当裁判所宛となつているのみならず、それ以外には当審における弁護人選任届が提出されていない点を参酌して考察すれば、右の父国島美義の弁護人選任届は、当審におけるものであると解するの外はない。ただ、前記のように七月三十一日附の右弁護人選任届が七月二十九日の受付になつているのは、如何なる事由によるものであるか、弁護人選任届の次に編綴されている同年七月三十一日附の弁護人Aの控訴申立書が同日の受付になつている点とその両者の受付番号が先後矛盾するのではないかと思料される点を考慮に入れると、ついにこれを諒解することができない。結局、原審の前記訴訟手続の違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。

(中略)

更に、原判決の法令適用の部分をみるに、心神耗弱による減軽をなすについて、刑法第三十九条第二項を適用しているだけで、同法第六十八条第三号の規定を掲記していないので、その適用をしていないのではないかを疑わしめる。ただ、その文意を推察すれば、特にこれを掲記していないけれども、その適用をしているものであると解し得られないこともないが、甚だ粗雑のそしりを免かれない。なお、原判決は、酌量減軽の規定を適用して、被告人を懲役六月に処断しているのであるが、およそ、酌量減軽は、その減軽の基準となるべき刑期の最低限をもつて処断するも、なお量刑が過重であり、その最低限を降した刑をもつて処断するを相当とする場合において、これをなすべきものであるというべきであり、本件においては、所犯は窃盗罪であり、原判決のように再犯加重、心神耗弱減軽及び併合罪加重をなすも、原判決が処断した懲役六月の量刑は、その加重減軽をした刑期の範囲内であることは明らかであるから、酌量減軽の規定を適用する余地はないものであり、その適用をした原判決は、法令適用の誤がある。ただ、その誤は、判決に影響を及ぼさないことが明らかであるということができる。

(裁判長判事 高橋嘉平 判事 山口正章 判事 海部安昌)

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